• 楽しい話
  • あたたかい話
  • 悲しい話
  • 怠け者の話
  • 欲ばり者の話
  • 呆れた話
  • 怖い話
  • キツネやムジナの話
  • お化けの話
  • 神様・仏様の話
  • 不思議な話
  • 災いの話
  • 地名の話
  • 戦(いくさ)の話
  • 房総の偉人
  • 房総の史実

地名の話

地名の話

一品親王と鶴姫

大多喜町の昔ばなし

1
むかしむかしのことです。
一品親王(いっぽんしんのう)というお方が、ここ上総(かずさ)地方を治めるために、京の都からやって来ました。大多喜横山(おおたきよこやま)の地に別荘を建て、政(まつりごと)のあいまに狩をしたり和歌をつくったりして暮らしていました。
狩に出ると、近くの豪族の屋敷に立ち寄るのが親王の慣(なら)わしになっていました。豪族の屋敷では娘の鶴姫(つるひめ)がお茶をたて、親王をもてなしました。
何度も立ち寄るうちに二人は恋仲になり、やがて祝言(しゅうげん)をあげることになりました。

2
祝言の夜、祝いの使者と名のる二人の男がやってきました。
「遠く京都からおいでくださりありがとうございます。さあ、上がってくだされ」
怪しむこともなく、二人の男を宴席(えんせき)に招きました。
祝いのことば、歌や踊りが次から次に披露されました。酒がまわり宴(えん)がたけなわのその時
「私たちも祝いの舞を・・・」
二人の使者は謡(うた)いながら舞い始めました。
「さすが都の舞だ。美しいこと」
みな感心し拍手をおくりました。
二人の使者は舞いながら、親王に近づくと、懐(ふところ)から短刀をぬき
「親王(しんのう)、かくご」
と叫び、胸をめがけて突きさしました。親王はその場に倒れました。都からの使者とは、刺客(しかく)だったのです。
「くせ者だ、捕(と)らえろ、捕らえろ」
と叫びますが、みな酔っぱらっています。どうすることもできません。刺客は館に火を放つと、夜の闇に消えてしまいました。親王はよろめきながら最後の力をふりしぼり刺客を追いかけました。 しかし、庭の池まで来たときでした。力尽き蓮の花の上に倒れてしまいました。すると不思議なことに、蓮の花はあっという間に枯れました。その時、館はひときわ高い炎を上げると、焼け落ちてしまいました。

3
この後、鶴姫は尼になり三明寺という寺を建て、一品親王の菩提(ぼだい)を弔(とむら)う日々を送りました。やがて鶴姫がなくなると、豪族は新しく寺を建て、一品親王と鶴姫の菩提を弔いました。 鶴姫の戒名(かいみょう)は「蓮光院宝岳聚永大姉(れんこういんほうがくじゅえいたいし)」と命名されました。寺の名は鶴姫の戒名から「宝聚院(ほうじゅいん)」と呼ばれました。
今もなお、宝聚院を「御所」と呼び御所畑(ごしょばたけ)、大門(だいもん)、馬場(ばば)など都育ちの親王をしのぶ地名が残っています。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

タグ : 

つか坊と姉ちゃん