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房総の偉人

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太田卯八郎と千葉県初の天然ガス

大多喜町の昔ばなし

1
むかしむかしのことだ。百年ほど昔の話だ。
大多喜町上原(うえばら)にある山崎屋(やまざきや)は醤油(しょうゆ)づくりを営んでいた。醤油づくりには大豆と水が必要だ。良い醤油をつくるには良質で大量の水が欠かせない。

2
明治二十四年五月。山崎屋の主人、太田卯八郎(おおたうはちろう)は商いを広げるため、庭に新しく井戸を掘り始めた。順調に掘り進んだ。
「この調子ならすぐに水脈(すいみゃく)にぶちあたるだろう」
井戸掘り人夫(にんぷ)達は、掘り出される土を見ながらつぶやいた。
それから二日後だった。
「思ったより手ごわいぞ。なかなか水脈にあたらないぞ」
「だんな、ブクブク…泡ばっかり出て来るんです」
「どうしたことだ・・・」
卯八郎は首をかしげながら眺めた。そして一服しようとタバコをとりだし、火をつけた。その時、
「ご主人さま、ご主人さま」
店の奥から主人を呼ぶ声がした。卯八郎は吸いかけのタバコをブクブクわき出る泡(あわ)の中に投げ入れ、店に戻ろうとした。
「おお、たまげた・・・。こりゃどうしたことだ」
卯八郎はあとずさりした。湧き出る泡が、ポッという音とともに青白い炎をたてて燃え出した。
「見ろ、見ろ。泡が燃えている。泡が・・・」
卯八郎はおどろいてさけんだ。番頭も醤油職人も集まって来た。
「泡が燃えている、泡が・・・」
あたりは騒然(そうぜん)とした。
うわさを聞いて、隣近所の人たちも見物に来た。
「悪い前ぶれではないだろか」
「いや、よい事が起こる前ぶれかもしれないぞ・・・」
と不思議な火を囲んで恐れたり喜んだりした。夜になっても、不思議な火は暗闇の中で青白い光を放って燃えた。

3
この泡こそ水溶性天然ガスであった。このガスが燃料や灯火に利用されるのに長い時間はかからなかった。
今も上原の太田家の庭には記念碑が建ち、千葉県天然ガス発祥の地を今に伝えている。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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