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不思議な話

不思議な話

幽霊沢の天狗

大多喜町の昔ばなし

1
むかし、むかしのことだ。
老川(おいかわ)地区横瀬(よこぜ)の奥に幽霊沢(ゆうれいざわ)と呼ばれる沢があった。幽霊沢と呼ばれるだけあって、うっそうと繁った樹木に囲まれた淋しい所だ。
ある冬の日のことだった。小沢又のエンばあさんが、孫をつれて幽霊沢に炭焼きの手伝いに行った。

2
エンばあさんは炭焼きをしなければならない。
「ここら辺りで、いい子にして遊んでいろな」
と孫にいい聞かせ、炭焼き場の近くで遊ばせておいた。
すると、小鳥が子どものそばにやってきた。それはそれは美しい朱色の鳥だった。子どもはその鳥を捕ろうと手をのばした。すると鳥はパッと飛び立った。 そしてまた近くに止まった。子どもはまた捕まえようと、鳥に近づき手を出した。鳥はまた飛び立って近くに止まった。
子どもは、素手で捕るのは難しいと思い、竹かごを持ってきた。そうしてまた、そろりそろりと近づき、竹かごをかぶせようとした。鳥は逃げて、また近くに止まった。
朱色の鳥は少しずつ森の奥に入って行った。子どもも鳥の後を追って、森の中に入って行った。
やがて小さな沢のそばに来た。子どもは竹かごを持って、そろりそろり小鳥に近づき
「エイッ!」
と竹かごをさしだした。
その瞬間だ。子どもの体はフワッと宙に浮き、大きな松の枝にひっかかっ
た。子どもは恐ろしくなり、泣いた。
「おまえはだれだ。ここは天狗(てんぐ)の住むところだ。人間が来てはならぬ場所だ」
真っ赤な顔をした天狗が怒鳴った。子どもは泣きながら、
「もう、来ません。許してください、許してください」
とわびた。
すると、天狗は襟首(えりくび)をつかんで子どもを地面に降ろしてやった。子どもが炭焼き小屋に向かって走り出すと、天狗はヒューと飛んで森の奥に入っていったと。
だから、きれいな鳥が来ても、決して追いかけてはならないぞ。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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つか坊と姉ちゃん