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キツネやムジナの話

キツネやムジナの話

大多喜城の招き橋

大多喜町の昔ばなし

1
むかし、むかしのことでした。大多喜のお城は敵(てき)の侵入(しんにゅう)をふせぐために城のまわりにはいくえにも濠(ほり)がめぐらされていました。本丸表門(ほんまるおもてもん)の近くには空濠(からほり)があり、つり橋がかかっていました。

2
月の美しい秋の夜でした。濠の底には橋がくっきりと影をおとし、時おり虫の音が聞こえてきました。お城で難しい詮議(せんぎ)を終えた三人のさむらいがやってきました。
橋のそばまで来るとさむらい達は人が立っているのを目にしました。目をこらしてよく見ようとすると、月に雲がかかりました。雲が過ぎるのを待ち目をこらしましたが、ススキの穂がゆれているだけです。
三人のさむらいは顔を見合わせました。もう一度見ると、なんとススキのそばで娘が手招きしているではありませんか。手招きされるまま、さむらい達は娘に近づいて行きました。すると娘は遠ざかり、片手に酒徳利(とつくり)を持ち、さらに手招きしています。娘の手招き通り進んでいくと、小さな酒屋に出ました。酒屋の卓には酒や肴(さかな)がならびいいにおいがしています。丸太のいすに腰をおろすと、
「おさむらいさん、一杯どうぞ」
とお酌してくれました。娘からはキンモクセイのようないい香りがただよってきます。さむらい達は
「これはかたじけない」
といいながらつがれた酒を一気に飲み干します。飲み干すとさらにまた
「どうぞ飲んでください」
とお酌してきます。さむらい達は娘に酒をつがれるままに飲みました。やがてすっかりいい気分になると、だらしなく卓に顔をふせグーグーいびきをかきながら寝込んでしまいました。
城内の見回り役人が朝一番の見まわりをしていると、三人のさむらいが橋のたもとに重なるように寝こんでいました。後日、三人は上役によばれ、こっぴどくしかられました。

3
美しい娘が出没するのは決まって月の美しい夜でした。やがて、だれ言うともなくこの橋は「招き橋」とよばれるようになりました。
今も月の美しい夜、お城の近くを歩いているとそれはそれは美しい娘に出会うことがあるそうです。しかし、美しい娘の正体はキツネだそうです。ご用心、ご用心。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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つか坊と姉ちゃん