1
むかし、むかし、上瀑(かみたき)地区に上瀑長者(かみたきちょうじゃ)とよばれる金持ちがいました。
長者はたくさんの使用人をやとっていました。 しかし、使用人達を牛馬のごとくこき使ったので、使用人は一人ヘり、二人ヘりで・・・とうとうだれもいなくなり、家運もかたむきかけていました。
そんなある日、やせた男がやってきて
「長者どん、どうか働かせてください」
とたのみました。働かせてみると、やせているのに力持ちで朝早くから夜遅くまで一生懸命働きました。 おかげで、かたむきかけていた家運ももちなおしました。
2
秋、米の収穫時期になりました。長者が
「よく働いてくれたので給金(きゅうきん)をやろうと思うが、望みはないかの」
というと、男は答えました。
「ありがとうございます。給金だなんてもったいないです。毎日、白いおまんまを食べさせてもらえただけでありがたいです」といいました。すると長者は
「遠慮しなさんな。なんなりといいなさい」
といいました。そこで男は答えました
「それでは、取り入れが終わったら、稲をほんのひとかつぎだけください」
(なんて欲のないやつだこと。あのやせっぽちならたいしたことはあるまい。よしよし)と思いました。
3
その年の秋は大豊作でした。男は
「稲刈りも終わりましたので、明日おひまをとらせてください。約束通り稲をひとかつぎいただいていきます」
とひまをとることを告げました。
翌日、男はハゼから稲をおろすと全部をひとまとめにしばり「よいこらしょ」とかるがる背負って行ってしまいました。
それに気づいた長者はおおあわて。男の歩いたあとには稲穂が点々と落ちていました。長者が稲穂のあとをたどって行くと、村はずれの道祖神の前で消えていました。 そして、泥によごれた草鞋(わらじ)がそなえてありました。
長者は、(これは、欲ぶかい私の心をいましめるため、神様が姿をかえてあらわれてくださったのだ)と気づきました。 それからというもの、長者は心をいれかえ、だれにも慈悲(じひ)深くなり、やがて家運も盛り返したそうな。
おしまい
(齊藤 弥四郎 著)