1
浜から、魚や干物を、天秤棒でかついで売りにくる人を「ぼてふり」とよんでいました。むかしは、ぼてふりが老川によくやってきました。平さんも、その一人でした。
日ざしのあたたかい、秋の日のことでした。いつものように魚や干物を天秤棒で、かついでやってきました。
2
伊保田から面白方面へ出るには、外出川をこせば近道です。そこで平さんは川におりました。川は、小さな谷川ですから、とび石がおいてあるだけで、橋はかかっていません。
ふしぎなことに、その日は、天気がいいのに、水かさがあって、とび石もみえません。今までこんなことはありませんから平さんは、びっくり。
「こりゃあ、こまったなあ」
「川をわたれないや・・・」
一人ごとをいいながら、天秤棒で水の深さをはかりました。
「これなら、わたれそうだ」
着物のすそをおって、ジャブジャブ、ジャブジャブ川にはいりました。そうして、やっとのことで、むこう岸にたどりつきました。
「さあ、先を急ごう」
としました。しかし
「何かたりないなあー」
と思いました。そうそう
「かごをむこう岸においてきた。なんていうことだ」
まぬけな、自分にあきれながら川をふりかえりました。
3
すると
「なに、なに・・・」
平さんは、びっくりしてしました。先ほどまでゴウーゴウー音をたてて流れていた川が、今はチョロチョロと流れているではありませんか。どうも、がてんがいきません
チャプチャプ、チャプチャプかごをとりにまた川をわたりました。
かごは、もとの所に二つならべておいてありました。
「よいこらしょ」
かごをかついでみますと、ばかに軽いではありませんか。
「おかしいな」
とおもいながらふたをとってみると中はからっぽでした。
「やられた」と思いましたが、あとのまつりです。そうです、きつねにばかされたのです。
むかし、老川の山にはきつねがたくさん出て、人をよくばかしたそうです。
おしまい
(齊藤 弥四郎 著)