• 楽しい話
  • あたたかい話
  • 悲しい話
  • 怠け者の話
  • 欲ばり者の話
  • 呆れた話
  • 怖い話
  • キツネやムジナの話
  • お化けの話
  • 神様・仏様の話
  • 不思議な話
  • 災いの話
  • 地名の話
  • 戦(いくさ)の話
  • 房総の偉人
  • 房総の史実

楽しい話

楽しい話

腰をうったエビ

御宿町の昔ばなし

むかしむかしのことだ。大地にはたくさんの獣(けもの)が走り、空には鳥たちが飛び交い、海や川には魚たちが群をなして泳いでいたころのことだ。
大多喜の山の中に、とても威張っている鷲(わし)がすんでいた。
「この世でおれ様が一番大きくて一番強い。すずめやつばめは小さくて弱虫だ」
「おれ様が空を飛ぶと、みんな逃げ回る。この前なんかおれ様が空を飛んでいたらすずめのの大群どもが逃げ回るではないか。それもチュチュチュチュ鳴きながら散り散りに逃げおった。まったくだらしない鳥だ」
と、自分の大きさと力の強さを自慢していた。
ある日、いつも空から遠くに見えていた海の方に行ってみようと思った。鷲(わし)は大多喜の山をはなれ、御宿(おんじゅく)の海に出た。空は晴れ、青い海がどこまでも続いていた。
「さすが、山とちがって少しは大きな鳥がいるわ」
そう思いながら、白い鳥の群に
「お前たちは何というなまえだ」
と、突っ込んでいった。すると、
「私たちはカモメというものです。お助けを」
と、逃げまわった。
「ハハハ、弱虫だな」
と高笑いしながら
「やっぱり、おれ様が一番強い」
「おれ様が・・・強い・・・」
と、うぬぼれた。
世界中で 一番大きいものはだれ
そんなの決まっているじゃない
山で育ったこの鷲(わし)だ

世界中で 一番強いものはだれ
そんなの決まっているじゃない
山できたえたこの鷲(わし)だ

どこに行ってもこの鷲(わし)に
逆(さか)らうものなどありゃしない
おれは山で育った鷲(わし)だもの

鼻歌をうたいながら、大きな翼をひろげて飛んでいた。鷲(わし)の姿を見ると、確かにどの鳥も逃げた。鷲(わし)は調子にのってどんどんどんどん沖に向かって飛んでいった。
「ああ、疲れた」
と、思った時には御宿(おんじゅく)の浜は見えなくなっており、遠くにトドロキ山が見えた。
「むむ・・・沖に来過ぎたか」
あわてて向きをかえたが、もどってももどっても砂浜が見えない。
「疲れた、もうだめだ」
そう思ったその時だ。海の上に一本の黒いものが見えた。
「おお、助かった。あの木の上で一休みしよう」
鷲(わし)は木に向かって飛び、木に止まった。
その時だ。
「だれだ、わしの上に止まっているやつはだれだ」
と、おそろしい声が海の中から聞こえてきた。
「このおれさまを知らぬのか。世界中で一番大きくて強い鷲(わし)様だ」
鷲(わし)は大声でどなり返した。すると、鷲(わし)よりも大きな声で
「おまえが世界一大きいだと。何をぬかす。おまえが止まっているのはわしのひげだ。世界で一番だと。このおれ様を見ろ」
と、大きな大きなえびが現れた。鷲(わし)が木と思ったのはえびのひげだったのだ。
「お許しを、えびさん、えびさんおまえさんこそ世界一大きくて強い。わしはとてもかなわない」
鷲(わし)は御宿(おんじゅく)の浜に向かって必死ににげていった。

世界中で一番大きいと言われたえびは、すっかり気分がよくなって海の中をすいすい泳いだ。

世界中で 一番大きいものはだれ
そんなの決まっているじゃない
海で育ったこのえびだ

世界中で 一番強いものはだれ
そんなの決まっているじゃない
海できたえたこのえびだ

どこに行ってもこのえびに
逆(さか)らうものなどありゃしない
わしは海で育ったえびだもの

と、鼻歌を歌い、意気揚々(いきようよう)と泳いだ。
やがて、夜になった。えびは
「今夜はこの岩穴で寝よう」
と、穴の中に入っていった。すると
「だれだ」
と、地響きのような声がした。
「おれ様か。おれさまは世界で一番大きくて強いえび様だ」
鷲(わし)から「世界一大きくて強い」といわれたえびはいばってどなり返した。すると
「ははは・・・。世界で一番大きいだと。なにをぬかしおる。お前が入っているのは、おれ様の鼻のあなではないか。ははは・・・」
笑い声とともに姿を現したのはクジラだった。
「動くな、動くな。おまえが動くとくすぐってえ」
と言ったかと思うと
ハ、ハッ、ハックショーン
とクジラが大きなくしゃみをした。えびは
ピューン
とふきとばされて小波月の岸壁までとんだ。えびは岸壁に思い切りぶちあたった。それ以来えびの腰(こし)は曲がってしまったと。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

タグ : 

つか坊と姉ちゃん