むかしむかし、御宿の清水川(しみずがわ)に、カッパがすんでいました。
カッパは、頭にきれいなかんざしをさしていました。
この清水川が流れる村に、『はな子』というかわいい娘がすんでいました。
はな子は、かんざしをさしたり、おしろいや口紅をつけたりする、とてもおしゃれ好きな娘です。村の中を歩くと、おおぜいの人がはな子をふりかえりました。
1
ある日、村人たちが
「カッパのかんざしはきれいだぞ」
「あんなきれいなかんざし、京の都へでも行かなければ、手に入らないだろう」
とうわさをしていました。
この話を聞いたはな子は、
「一度でいいから、そのカッパのカンザシを、私もさしてみたいなー」
と、思うようになりました。
でも、子どもは川に引きこまれるから、カッパのすんでいる川に近づいてはいけないと、両親からいわれていました。
2
ある夜のことでした。はな子は、親が寝しずまるのを待って、家をぬけ出し、カッパのいる清水川へと出かけました。川に近づくと、カンザシをさしたカッパがいました。
「・・・まあ、なんときれいな・・・」
カッパのかんざしは、月の光にキラキラと輝いて、その美しさといったらありません。
「一度でいいから、あのカンザシをさしてみたい・・・」
はな子はその夜いらい、すっかりカッパのかんざしに、心をうばわれてしまいました。
それからは毎晩のように、清水川へ行きました。
ある夜、カッパがはな子に向かって
「おいで、おいで」
と、手招きをしました。
はな子はカッパに招かれるままに、川の中に入って行きました。
そして、二度と帰っては来ませんでした。
3
このことがあってから、村人たちは、はな子が消えた川のあたりを、『はな子淵(ぶち)』と呼ぶようになりました。
今となっては清水川の形も変わり、『はな子淵(ぶち)』がどこにあったのか、知る人はいません。
おしまい
(齊藤 弥四郎 著)