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キツネやムジナの話

キツネやムジナの話

九兵衛とむじな

勝浦市の昔ばなし

むかしむかしのことだ。まだ自転車や自動車などなく、自然がいっぱで動物もたくさんいたころの話だ。

1
豊浜でりょうしをしていた九兵衛さんは、浜でとったさかなをきょうも勝浦のまちに売りにでかけた。朝はやかったので道ばたの草に朝つゆがおりていた。山道にはいると、夏の日ざしも、うっそうとしげった木々にさえぎられて、うすぐらかった。その山道のむこうから、男の子が歩いてきた。こども一人でどうしたのか、と思って九兵衛さんはたずねた。
「どこへいくのかね」
「おら、これから浜へいくだ」
「一人でか」
「うん、おとうが病気で寝たっきりで、さかなをくいたがっているんだ」
「おとうさんのために・・・えらいね」
九兵衛さんは、すっかりかんしんしてしまった。
「かわいそうに、それならこのさかなをもって行け」
にもつをおろして、
「今朝とったばかりのさかなだ。はやくおとうさんにもって行ってやれ」
といって、さかなを一ぴきあげた。
「これは、これはすみません。病気のおとうがよろこぶでしょう。ありがとうございます。ありがとうございます」
なんどもれいをいって道をひきかえして行った。

2
またしばらくすると、道のむこうからこどもがやってきた。せたけは先ほどの子どもと同じくらいであったが、こんどは女の子である。九兵衛さんはこんな山のなかに女の子が一人、とふしぎ思ってまた声をかけた。
「どこへ行くのかね」
「はい、これから浜に行くのです」
「女の子、一人でか」
「はい、かあさんが病気になって、さかなをたべたいというのです」
「さかなをね」
かわいそうに思った九兵衛さんはまた荷物をおろして
「これをもって行って、はやくお母さんにたべさてあげなさい。けさとったばかりだ」
といいながら、魚をもたせてやった。すると、女の子は
「ありがとうございます。お母さんもよろびます。ありがとうございます。ほんとうにありがとうございます」
なんどもなんどもれいをいって、きた道をひきかえして行った。

3
山道がそろそろ終わるころ、また道ばたに子どもがしゃがんでいた。こんな山道に子どもがどうしたのだろうと思って
「どうしたんだね」
とたずねた。するとこどもは、
しくしく しくしく・・・
ないてばかりいる。
「なぜ、ないているんだね。こんなところで」
「・・・はい。じいちゃんが病気でねていて、さかなをたべたいというのです」
「じいちゃんがびょうきかね。かわいそうに」
そういうと、またにもつをおろして
「このさかな、じいちゃんのところにもっていってたべさせてあげな」
といって、さかなを手わたした。

4
山道をまがるがるたびに子どもがいて、家のものが病気だという。そのたびに人のいい九兵衛さんは、かわいそうに思ってさかなをやったので、勝浦の町についたときには、かごの中のさかなは少しかのこっていなかった。うりあげ金も、いつもよりずっと少なかった。
「しょうがねえなあ。人だすけしたと思えばしかたねえか」
「また、あしたがあるっぺ」
といいながら、かごをせおって、豊浜にかえって行った。

5
あくる日も九兵衛さんは、しんせんなさかなをかごに入れて勝浦のまちに売りにでかけた。
うすぐらい山道にはると、昨日とおなじところで、昨日の男の子があるいてきた。九兵衛さんをみると男の子はいきなり
「お父さんが病気です。さかなをください」
といった。かわいそうにおもった九兵衛さんはかごをおろして
「お父さんがびょうきか。はやくこれをもって行ってたべさせてあげな」
と、きのうとおなじようにさかなを手わたした。男の子はきのうとおなじように
「ありがとうございます。ありがとうございます」
と、なんどもれいをいって道をひきかえして行った。
山道を行くと、ふしぎなことに昨日とおなじところに、子どもがいるではないか。そうしてそのたびに、家のものが病気でさかなをたべたいという。
「どうも、おかしいな」
人のいい九兵衛さんもふしぎに思い、つぎの子どもをよおくみた。すると、着物の下からしっぽがでているのではないか。
(だまされた。これはむじなだ)
そう思った九兵衛さんは
「こりゃ、むじな。うそつくな」
と、いってつかまえた。
むじなはびっくりして、もとのすがたにもどってにげようとした。しかし九兵衛さんは、サッとしっぽをつかんだ。
「おい、むじな。よくもだましたな」
「たすけて、たすけて」
「だめだ。おあら、売り物のさかなみんなおめえにやって、商売ができん」
「たすけて、たすけてください」
「むじな。今度はおいらをたすけてくれ」
「たすけるって、なにすればいいのかね」
「大きなさかなにばけてくれ。なにわるいようにはせん」
といって、むじなをしばった。むじなも、つかまったからにはしかたがねえと、あきらめてさかなにばけた。
九兵衛さんは、大きなさかなにばけたむじなをかついで、売りにでかけた。大きなさかななので、とうぜんのように高くうれた。金をうけとると、九兵衛さんは
「もうかった、もうかった。あんなに高くうれるとは」
といいながら、さっさとかえってきた。

6
売られたむじなは、なわでしばられているので、うっかりもとのすがたにもどれない。死んだふりして、ひもがとかれるのをまっていた。夕方になって、おかみさんが
「きょうのさかなはすごいでかい。それにしんせんだ。今夜はさしみにでもしようか・・・」
といいながら、大きなほうちょうでひもをきって、さかなをまな板の上にのせた。
そのときだ。
「たすけてくれ。たすけてくれ・・・」
ぱっと、さかなからむじなのすがたにもどるとにげだした。
びっくりしたのはおかみさん。
「きゃー。さかながむじなに。さかながむじなに」
ほうちょうをふりあげたまま、こしをぬかしてしまった。むじなは、けんめいに走って豊浜の山ににげかえった。

7
「もう少しでころされるとこだった・・」
「九兵衛のやろう。ゆるせない」
むじなはくやしがった。
「なんとかして、九兵衛をこらしめてやりたい」
「九兵衛がいちばんこまることってなんだろう・・・」
こんなことばかり考えていた。
「そうだ。りょうしはりょうに行けないのがいちばんこまるだろう。そうだりょうに行かせないようにしてやろう」
むじなは九兵衛さんがいつも通る道にまっていた。九兵衛さんは、なにもしらずに、いつものようにさかなあみをもって浜におりて行った。すると、きゅうに目の前の草が、ボウボウもえはじめた。
「おお、びっくりした。火事だ、火事だ」
九兵衛さんはすぐそばを流れる小川から水をくんで、火にかけた。ところが、いくら水をかけてもきえない。
(ははん、こりゃ、むじなのしわざだな)
と、思いいそいでまた家にもどると、こんどはイモをもってきて火の中にいれた。イモがやけるころになるとむじなは、九兵衛さんのじゃまをすることをわすれて、もとのむじなのすがたになり、やけたイモをくわえて山ににげかえった。

8
つぎの日の朝。むじなはまた火をもやして九兵衛さんのじゃまをした。
むじなのやりくちをしった九兵衛さんは、今朝はふところにクリをもってでかけた。そうして、ぼうぼうともえる火の中にクリをいれた。
クリがやけるころ、むじなはクリをぱくぱくたべた。おなかがいっぱいになったので、むじなにすがたをかえてにげようとした。そのときだ。
パン パン パーン
パパン パン パパン パン
パン パン パーン
パパン パン パパン パン
・・・・
むじなのはらがはじけた。
アチチチチイ。アチチチチイ
アチチチチイ。アチチチチイ
・・・・・・
「たすけて たすけて・・・」
むじなは、なきながら山ににげていった。
それいらい、むじなは人にいたずらをしなくなったということだ。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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