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欲ばり者の話

欲ばり者の話

御千代ヶ島

勝浦市の昔ばなし

勝浦湾(かつうらわん)に「御千代ヶ島(おちよがしま)」とよばれている、小さな小さな島がある。いつも波に打たれ、潮が満ちてくると海にのみこまれる島である。御千代ヶ島(おちよがしま)とよばれる前は「波打つ島」という意味から『槌島(うつしま)』とよばれていた。しかし、いつのころからか、はっきりしないが「御千代ヶ島(おちよがしま)」とよばれるようになった。そうよばれるようになったは、こんな話による。

1
むかし、むかしのことだ。
勝浦湾(かつうらわん)には、かわいらしい小さな島があった。いつもは海のそこでみえないが、潮のひいたときにしか、すがたをみせない島だ。
その年はどういうわけか、魚があまりとれなかった。
「どうしたことだ。こんなに漁がなくてはおまんまもたべられねえ」
「こまったことだ。・・・ほんとにどうしたことだ」
漁師(りょうし)たちは、漁のないことをなげいた。
オチヨという女漁師(りょうし)が、舟(ふね)にのって漁に出かけた。この島の近くまでくるとどうしたことか、舟がいっこうに動かない。おかしなこともあるもんだ、オチヨは不思議に思った。舟(ふね)から海の底をみたら、赤くぶきみな色にかわっているではないか。オチヨはこわごわ、海の底をみた。なんと、いままでみたこともない、大きなタコが舟(ふね)底にすいついているではないか。
「こりゃ、しまった。なんと、気持ちの悪いタコだこと・・・」
オチヨはありったけの力(ちから)で、ろをこいだ。しかし、舟(ふね)はびくともしない。
「たすけてくれ、たすけてくれー」
と、さけんだ。
するとやがて、
ザバ ザバッ
と水しぶきがあがったかとおもうと、舟(ふね)の中にドバッと大木のようなものが落っこちてきた。
「たすけてくれー。ばけものだ」
オチヨは思わずさけんだ。よくみるとばけ物は大だこの足だ。足は舟(ふね)の中でくねくねうごいてオチヨにちかづいてきた。
(このたこの足にまきつかれたら、死んでしまう)
オチヨは、大ぼうちょうをむちゅうになってふりまわした。そうしてやっとのことで、たこの足を切りおとした。
すると、大だこは海のそこへとしずんでいった。
「おお、こわかった。たすかった」
「・・・こわかった」
舟(ふね)いっぱいもあるタコの足をみながら、大きくしんこきゅうしてあせをふいた。

2
ギッチラコ、ギッチラコ
ギッチラコ、ギッチラコ
・・・・・・
舟(ふね)をこぎなら、このタコは高く売れるだろう、と思った。さっそく、浜の近くのはたごに売りにいった。予想どおり、漁が少ないので思いがけない大金でうれた。

(こんなに大金になるなら、あすもいってみよう)
よく日、朝早く起きると大ぼうちょうをといだ。そうして、きのうとおなじ海にに舟(ふね)をむけた。
「このあたりだったな・・・」
とひとりごとを言いながら海の底をみていた。すると、きのうとおなじように、まっ赤に海がそまっていた。オチヨはおそるおそる舟をすすめた。舟(ふね)が大タコのま上にきたときだ。
ザッバーッ
と水しぶきをあげ、太くて長い足をドデーンと舟(ふね)の中にのばしてきた。オチヨはといできた大ぼうちょうをふりおろしてタコの足をきりとった。タコはまた海の底にしずんでいった。
舟(ふね)をこいでかえってくると、きのうとおなじように、はたごに売りにいった。はたごの主人はきのうとおなじように高いねで買ってくれた。

3
こうして、つぎの日も、またつぎの日もタコの足をとってきた。はじめはこわかったが、六日め、七日めとなると、オチヨはすっかりなれてきて、こわさは感じなかった。それどころか、きょうも大金がはいるとよろこぶようになっていた。
でも、八日めの朝はさすがのオチヨもちゅうちょした。
(タコの足は八本。きょうがさいごの一本だ。これだけ大金も入った。このへんでやめておこうか。けがでもしたらたいへんだし・・・。そうかといって、大金をみすみすのがすのもおしい・・・)
しかし、金のゆうわくにはかてず、大ぼうちょうをもって今朝も舟(ふね)をこぎだした。
ところがどうしたことか、その日にかぎって大タコのすがたが見えない。
(おかしいなあ。このへんにいるはずなのに)島のまわりをぐるぐるまわって大タコをさがした。
そのときだった。
ザザーッツ、
大きな波しぶきがたったかと思うと、大タコの足がのびてきてオチヨをクルクルまきつけた。オチヨはいそいで大ぼうちょうをとろうと、手をのばしたが手がとどかない。
たすけてくれー
たすけてくれー
・・・・・
オチヨはありたっけの声でさけんだ。しかし、オチヨの声は勝浦の海にきえていった。そうして大タコの足にまかれたまま、海のそこふかくひきこまれていった。
こんなできごとがあったあと、だれいうともなくこの小さな島を「御千代ヶ島(おちよがしま)」とよぶようになった。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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