• 楽しい話
  • あたたかい話
  • 悲しい話
  • 怠け者の話
  • 欲ばり者の話
  • 呆れた話
  • 怖い話
  • キツネやムジナの話
  • お化けの話
  • 神様・仏様の話
  • 不思議な話
  • 災いの話
  • 地名の話
  • 戦(いくさ)の話
  • 房総の偉人
  • 房総の史実

お化けの話

お化けの話

太東崎の化けもの「あやかし」

いすみ市の昔ばなし

夏の暑い日のことだった。奥州(おうしゆう)から江戸に米を運ぶ船が太東崎沖を通りかかった。
「親方、太東の港に船をつけてください。水が底をついてしまいました」
「水がなくなったか。それはこまる」
船は太東の港に横づけされた。
「親方、われらが水を調達してきます」
と、桶(おけ)と天秤棒(てんびんぼう)をもって、三人の煮炊(にた)きをする若者が船をおりた。
水が来るまで、船乗り達は思い思いに時を過ごした。船の帆影(ほかげ)で昼寝をする者、船をおりて港の近くを散策する者、木陰(こかげ)でふるさとの父母に手紙を書く者・・・と。
間もなくして、若者達が天秤棒に桶をぶらさげて帰ってきた。
「ご苦労さんでした。早かったね」
「ええ、すぐそこ、あの崖(がけ)の上に井戸(いど)がありましてね」
「なに、崖の上?」
「ええ、女が水をくんでくれましてね。それも美しい女がね。こんな田舎でもあんな美しい女がいるとは」
と、井戸端(いどばた)であった美しい女のことを話した。
「あんな崖の上に井戸などないはずだ」
「でもたしかに、井戸があって、女がくんでくれたのですが」
「それは化け物だ。アヤカシという化け物だ」
「そんなバカな・・・」
「むかし、もう四十年もまえだろうか。今日のように水を求めてこの太東崎に上陸した者が行方知らずになったことがある。それはアヤカシにやられたのだ」
「すぐに船を出そう」
船頭は錨(いかり)をあげて、船を出した。
すると、それを見ていた女が崖の上から海に飛び込んだ。女は海面に浮かんでくると船に近づいてきた。そうして船の手すりに手をかけた。船頭は艪(ろ)で思いきり女の手をたたいた。
ギャー
という叫び声とともに手を離した。しかし、今度は船の舳先(へさき)にかじりついた。船頭は
「この女を船に乗せてはなんねえ。あれはアヤカシだ」
と、艪で女をたたいた。他の船乗りも艪でたたいた。女はすかさず海底にもぐって姿をけした。
しばらくすると海面が波立った。海中から姿をあらわしたのは大蛇のような体に、タコのイボのようなものがついたとてつもない大きな化け物であった。
蛇のようなタコの足のような化け物の体が船を襲ってきたが、船乗りたちは必死で艪(ろ)をふりまわし、化け物をなぐりつづけた。船頭は
「神よ仏よわれわれをお守りください。お守りください」
と、天にむかって唱えた。
やがて、化け物は海底ふかく沈んで姿をけした。この化け物の正体こそアヤカシという海の化け物だったのです。
今となってはこんな話をしっている人もいなくなったが、この話は江戸時代の妖怪話『怪談(かいだん)老(おい)の杖(つえ)』(作・平秩(へづつ)東作(とうさく))に出ている話です。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

タグ : 

つか坊と姉ちゃん