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戦(いくさ)の話

戦(いくさ)の話

筆かけのマキ

いすみ市の昔ばなし

むかし むかし、今からざっと、八〇〇年ほどまえの お話です。
京都で ぜいたくな生活にふけっている平家をたおし、新しい世の中をつくろうとする 武士の集団がありました。源氏の一族です。一一八〇年、源氏の大将 源頼朝は伊豆で 平氏だとうの兵をあげました。しかし、負けいくさとなり、ここ千葉県にのがれてきました。
なぜ、千葉県にのがれてきたのかと もうしますと、そのころ、ここ夷隅郡大原の地に 上総介広常という 大きな勢力をもつ武将がおりました。この上総介広常の力をかりるために、頼朝は千葉県に のがれてきたのです。

1
頼朝は家来をしたがえて、布施にある 上総介広常の館をたずねました。
「広常どの、京の都で ぜいのかぎりをつくしている平家をほろぼさなくてなりませぬ。それには、あなた様のお力が必要なのです。どうか、お力をかしてくだされ」
「・・・・」
広常は目をとじて、だまったままです。
「お願いします。お力をかしてくだされ。そうすれば、生活にくるしんでいる百姓たちの生活もよくなります。今は、京の都平家一族だけがさかえ 豊かです。しかし、もっと もっと 私たちの住む関東の地も 豊かにしなければなりません」
「・・・・」
それでも、だまって広常は考えこんでいました。
しばらく、ちんもくがつづいたが、広常はきりだしました。
「ところで、下総の国の千葉氏は どうされたかな。頼朝どのに お力をかされるかな」
「は はい。千葉氏にも、使いの者をつかわして、力をかしてくださるよう
お願いしているところでございます」
「さようか。・・・頼朝どのは源氏のごちゃくなん。ぜひ、お力になりたいものです。しかし・・・」
「うれしいおことば、ありがとうございます・・・」
「しかし、下総の千葉氏のご返事をまってからにしていただけないだろろうか」
・・・・
そっけない広常の返答に 頼朝の心は にえたぎっていました。しかし(上総一の大将。三万の兵をもつ広常である。広常をみかたにしなければ、平家をほろぼすことはできない。ここは、がまん がまん)と、気持ちをけんめいにおさえていました。

2
「せっかく、この上総の地 布施までおいでくださった。源氏のはんえいを願うためにお寺にさんぱいなされ。この近くに最近、お寺ができたので、ご案内しよう」
広常は 頼朝を近くの長福寺に案内した。寺の住職は、源氏の大将であることをしると、ていねいにもてなし、頼朝にいいました。
「頼朝どの この寺はできたばかりで、まだ山号がありません。ひとつ山号をつけていただけないでしょうか」
「わしが、この寺の山号を・・・。わしでよければ、つけましょうか」
「つけていただけますか」
住職は 紙と筆とすずりをもってこられた。
もってきたすずりを じっとみつめていらしゃいました。
「これは これは、なんとすばらしいすずりだこと。このような立派なすずりを見たのは はじめてだ。なんてすばらしいこと、日本一のすずりだ」
と しきりに感心されました。
「そうだ。この寺には日本一りっぱなすずりがあるので、すずり山という山号にしましょう」
と すみをすりながらいいました。
住職が
「お願いします」
と 筆をだされました。頼朝はていねにふでをうけとられた。
その時です。
ヒヒーン ヒヒーン
するどい馬のいななきがしました。(さては、平家の者がわしの命をねらいにきたな)と思い、すぐそばにあった「マキの木」に筆をかけ、こしの太刀をにぎりました。
馬のいななく方をみると、敵ではありません。なんと、真っ黒なはだか馬が走ってくるではありませんか。そうして、頼朝のところまでくると、急にたちどまり、大きな目をまばたきさせ、かわいらしく首をふるのです。毛のつや あしの筋肉 一目で名馬であることがわかります。
「おお、なんとすばらしい馬だこと」
「この馬の持ち主はだれかのう。わしの愛馬にしたいが」
「ああ、この馬は近くに牧場がありますので、さくをこえて にげてきた馬でございましょう」
頼朝は一目でこの黒い馬が気にいり、愛馬になさいました。
長福寺のマキの木は、このとき頼朝が 筆をかけられたので「筆かけのマキ」とよばれるようになりました。現在、樹齢一三五〇年といわれ、根まわり五メートル、高さ十メートルもの大木です。
頼朝の愛馬は すみをすっている時に頼朝の前にあらわれたので「するすみ」と命名されました。頼朝は この愛馬を後に家来の梶原景季(かじわらかげすえ)におくりました。梶原景季はこの「するすみ」にのって、「宇治川の戦い」で大活躍しました。

3
千葉県一の大将 広常は 三万の兵をつれて、頼朝に味方しました。そうして平家をほろばすのに大活躍しました。
しかし、頼朝は援軍をお願いにきた時、すぐに援軍を出さなかった広常の態度が後々まで不満でした。また、たくさんの兵をもつ広常にいつ反逆されるかわからない、という不信感をもち、後に広常を暗殺してしまいました。

おしまい
(齊藤 弥四郎 著)

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