梅雨時の夕方は逢魔が時。
雨の降る夜は、月の光もなく、魔物や妖怪が出やすい。
「魔物に出会う時間」という意味から、「逢魔が時(おうまがとき)」と呼ぶ。
こんな梅雨時の夜の話がある。
むかしむかし、大多喜は鍛治町に、腕の良い刀鍛冶がいました。
梅雨時の、ある夕方のことでした。
注文先の侍さんのお屋敷へできあがったばかりの刀を届けに行きました。
お侍さんは刀の出来をとても気に入って、ごちそうでもてなしてくれました。
おかげで帰るのがとても遅くなってしまいました。
「雨も降っているし、近頃は化け物が現れるとのうわさだから、今夜は泊まっていきなさい」
お侍さんはそう言ったのですが、
「いや、今日は魔除けの名刀をたずさえてますから、何が出ようと、ご心配にはおよびません」
と、刀鍛冶は自分の店のある西の方角を進みました。
雨がいちだんと激しくなってきました。
小坊主が侍屋敷の軒下で雨やどりしていました。
歳の頃は六つか七つで、この雨でびしょぬれです。
「おや、おや? どこの小僧さんかね? わしが、寺まで送ってやろう」
鍛冶屋がかさをさしかけました。
すると小坊主は何も言わず、スタスタ歩き出しました。
「これ、これ小坊主、待ちなさい。風邪をひくぞ」
鍛冶屋が話しかけても、小坊主は返事をしません。
やがて、小坊主はふと立ち止まりました。
そして、鍛冶屋の方をふり向きました。
「風邪をひくぞ、さあさあ入りなさい。・・・ひぇーっ!」
鍛冶屋は、小坊主の顔を見てびっくり。
な、なんと小坊主の顔には、大きな目が一つしかなかったのです。
「一つ目小僧だー!助けてくれー」
鍛冶屋はその場で気を失ってしまいました。
明け方になって、雨もあがっていました。
鍛冶屋は目が覚めて、やっと我にかえりました。
「そうだ、大事な魔除けの名刀は?」
まわりをキョロキョロ探してみました。
かさやちょうちんは、雨にぬれてそばに落ちていました。
しかし不思議なことに魔除けの名刀は、どこにも見当たりません。
さらに不思議なことには、鍛冶屋は確かに西の方角へ歩いていたのですが、刀屋が見つかったのは、町の東のはずれだったそうです。
雨の夜は月もなく暗い、妖怪や魔物にとって出没するのに絶好の時間なのです。
そう、夕方暗くなる時間を「おうまがとき(逢魔が時)」という。
魔物に逢(あ)う時間、と恐れられていました。
おしまい
(齊藤 弥四郎 著)
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