毎年一度三学期末、試験が終わると学芸会が催された。各学年の学級毎にいろいろと出し物を研究した。今でも思い出す劇は、舌きり雀、一寸法師、酒呑童子、兎と亀、かちかち山、桃太郎、浦島太郎等、桜井の駅の別れ、羽衣の舞、マジック、読本の朗読、唱歌、踊り、遊技等々、なかなか盛りだくさんなものがあり、先生方も何とか自分の学級が面白くそして上手に終えることが出来るように熱心に指導した。九十五歳の今でも覚えている。家族の者達はおもに祖父母が就学前の幼児を連れ弁当持参で見物に来て、広い講堂も溢れんばかりであった。私は高等科二年の時、「開会のことば」と読本の朗読「平家物語の一部」をすることになり、母は貧しい中から工面して、紺職絣の袷と羽織を新調してくれたことは忘れられない思い出である。しかし、その頃の父も母も学芸会どころではなく働かなければならなかったのである。
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